ステラ・テナントが着るシャネル96A|カール期のCHANELミリタリージャケット【1996秋冬】

1996年秋冬のシャネル(96A)は、ミリタリーの端正な緊張感に、宝石のようなボタンとジュエリーを重ねたコレクションです。カール・ラガーフェルド期らしい細身のジャケットやロングコートには、黒、ブラウン、オリーブ、ベージュといった落ち着いた色が使われ、ゴールドや色ガラスの輝きがアクセントになっています。

広告に登場したのは英国出身のモデル、ステラ・テナント。カール自身が撮影し、舞台にはパリのUNESCO本部にある安藤忠雄の「瞑想の空間」が選ばれました。服、モデル、建築が一つの静かな緊張感で結ばれた、96Aを象徴するキャンペーンです。

シャネル96A|カール・ラガーフェルドのミリタリージャケットとコート

96Aでまず目に入るのは、軍服を思わせる構築的な輪郭です。高めの襟、ダブルブレスト、規則正しく並ぶボタン、長くまっすぐに落ちるジャケットやコート。けれども、厳格なユニフォームをそのまま再現しているわけではありません。

ウエストを細く整えた黒のジャケット、ブラウンやオリーブを織り込んだツイード、千鳥格子のロングシルエット。肩から裾へ続く縦の線は凛としていて、身体に沿う曲線やスカートとの組み合わせはしなやかです。カールはミリタリーの「規律」を借り、シャネルらしい女性の服へ置き換えました。

軍服の規律を、宝石の輝きでほどく。
硬さと華やかさの間に、96Aの魅力があります。

ランウェイでは、静止画だけでは分かりにくいジャケットやコートの長いシルエット、服に沿って並ぶボタンのリズムも確認できます。

CHANELのツイードを彩るグリポワの色ガラス

ミリタリーの硬質な線をやわらげるのが、ボタンやベルト、ジュエリーの色彩です。96Aには、溶かした色ガラスを型へ流し込んで成形する装飾が見られます。カットした透明石とは異なる深い色、丸み、わずかな揺らぎが、小さなボタンにも宝石のような存在感を与えます。

この技法で知られるのが、1869年創業のパリのジュエリーメゾン、グリポワです。メトロポリタン美術館も、グリポワをCHANELと早くから頻繁に協働したメゾンの一つと紹介しています。流し込む製法は色と形の自由度が高く、ガブリエル・シャネルが好んだ鮮やかなコスチュームジュエリーとも好相性でした。

96Aでは、前身頃に並ぶボタンが縦のラインを強調し、ベルトのバックルがウエストを定め、ネックレスやイヤリングが黒い服の上で色を放ちます。ミリタリーとジュエリーという反対の要素が、一つのデザインとして働いています。

グリポワ
宝石ボタンの物語を読む

ステラ・テナントが着るシャネル96Aジャケット

1996年秋冬広告のモデルはステラ・テナント、撮影はカール・ラガーフェルドです。1996年5月の『Women’s Wear Daily』は、カールがステラを起用し、UNESCO本部でおよそ30点のモノクロ写真を撮影したと報じています。短い髪とアンドロジナスな佇まいで知られた彼女の凛とした存在感が、96Aのミリタリー要素と自然に重なりました。

広告アーカイブ「CHANEL ARCHIVES」の整理では、96AがステラにとってCHANEL初の広告キャンペーン。その後も1997年春夏から2017年クルーズまで断続的に登場し、合計9キャンペーンに起用されたとされています。

Stella Tennant in a beige CHANEL look for the 1996 Fall Winter 96A campaign
Stella Tennant in a yellow CHANEL jacket for the 1996 Fall Winter 96A campaign
Stella Tennant in a neutral CHANEL look for the 1996 Fall Winter 96A campaign
Stella Tennant in a light CHANEL jacket for the 1996 Fall Winter 96A campaign

安藤忠雄「瞑想の空間」で撮影されたCHANEL 96A広告

撮影場所は、パリのUNESCO本部にある「瞑想の空間(Meditation Space)」です。日本人建築家・安藤忠雄が設計し、UNESCO創設50周年にあたる1995年に完成しました。打ち放しコンクリートの円筒と、限られた開口部から入る光が、外の喧騒から切り離されたような静けさをつくります。

床には、広島で被爆したのち除染された花崗岩が使われています。人種や宗教を越えて平和を思うための空間として設計された場所です。

軍装を思わせる服と、平和を願う建築。この対比を意図したとCHANELが公式に説明した資料は確認できませんが、コンクリートの抽象的な面が、96Aの直線的な仕立て、金属やガラスの光、ステラの輪郭を鮮明に見せていることは分かります。

UNESCO公式サイトでは、この空間を含むパリ本部を事前予約制のガイドツアーで見学できると案内しています。

シャネル96Aのツイードジャケットとコート|今の着こなし

96Aのジャケットは装飾性が高い一方、土台のシルエットは端正です。今着るなら、ボタンを主役にして周囲を静かに整えるのがきれい。黒のジャケットには同色の細身パンツやストレートスカート、ブラウンやオリーブのツイードには無地のインナーを合わせると、1990年代の強さを残しながら現代の装いになじみます。

色ガラスや大きなゴールドボタンがある服は、ネックレスを重ねなくても十分に華やかです。前を閉じれば軍服のように端正に、開ければ軽やかに。細長い仕立てと明確なディテールがあるからこそ、96Aは約30年を経ても輪郭がぼやけません。

シャネル 1996年秋冬(96A)

のジャケット・コート・スーツ・ワンピースなど
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参考資料

UNESCO「Guided Tours」

UNESCO House「The Building」

UNESCO「The Seeds of Peace」

The Metropolitan Museum of Art「House of Chanel: Necklace」

Women’s Wear Daily「The Fall Ad Scene Heats Up」1996年5月17日

CHANEL ARCHIVES「The CHANEL Fall 1996 RTW campaign featuring Stella Tennant」

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