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グラン・パレに現れたのは、作り物の雪山ではなく、スカンジナビアから運ばれた巨大な氷塊。浅いブルーの水をモデルが踏みしめ、毛足の長いスノーブーツで歩く――CHANEL 2010年秋冬(10A)は、カール・ラガーフェルド期でも忘れがたい「北極シック」のショーです。
けれど、本当に面白いのは氷山の大きさだけではありません。シャネルがこの舞台で主役に据えたファーは、すべて「ファンタジーファー」と呼ばれたフェイクファーでした。
巨大な氷塊は、浅いフィヨルドブルーの水に囲まれ、会場全体が冷たい光を帯びていました。透明なカバーを底に付けた靴や、氷のブロックを思わせるヒールまで、足元にも舞台の物語が続きます。
ショーの冒頭では、フード付きのファースーツ姿の男女が登場。その後、ツイードジャケット、レザー、ケープ、パンツへと毛足の長い素材が広がり、「寒い場所のためのココ・シャネル」を大胆に描きました。
コレクション直前のメークアップ映像では、ピーター・フィリップスが手がけた大胆なアイメイクを間近で見られます。
まずは、氷山と水面、シルエットの動きを通して見られるフルショー映像です。
ラガーフェルドは、かつて見栄えがよくなかったフェイクファーも技術が大きく進歩したと説明し、この素材をより優雅に「ファンタジーファー」と呼びました。リアルファーの代用品として隠すのではなく、質感そのものをデザインの中心に置いたのです。
茶色のツイードにはファーを織り込み、レザージャケットの下半分には深い毛足を配し、丸いケープやボンネット、パンツにまで展開。おなじみのシャネルスーツも、氷柱のようなフリンジやきらめくクリスタルのピンで、凍った景色の一部に変わりました。
ここが10Aの見どころ。
クラシックなツイードを守りながら、表面の毛足、光、量感を変えるだけで、シャネルジャケットがまったく新しい冬の服に見えます。
「定番を崩さず、素材の見せ方だけで驚かせる」ラガーフェルドらしさがしっかりと詰まったコレクションとなっています。
当店で扱ってきた10Aのアーカイブを見ると、ランウェイの大胆なアイデアが、着やすいジャケットへどう落とし込まれたかが分かります。
黒はレザーと毛足のある黒を重ねて陰影を作り、ボルドーはキルティングポケットと濃色のトリミングで奥行きを出しています。
アクセサリーには、定番バッグのキルティングが冷蔵庫の製氷皿のように「凍った」透明シルバーのクラッチが登場しました。CCクラッチを氷の彫刻に見せるという、少し笑える発想までラグジュアリーに仕上げています。
一方、服作りは想像以上に繊細。中央を氷河の青に染めた短いアンゴラのセータードレス、ダウンジャケットの膨らみを編み目で表したグレーと黒のカーディガンコート、そしてフィナーレには、シルクチュールのリボンを編んでブークレツイードのように見せたウェディングドレスまで登場しました。
つまり10Aは、ファーのショーであると同時に、ニットの技術を存分に見せたコレクションでもあります。
遠目では冬の大きなボリューム、近くでは刺繍、編み地、クリスタル。見る距離によって印象が変わるのが魅力です。
同シーズンの広告撮影の舞台裏映像では、ランウェイとは異なる静かな画面で、素材の陰影やコーディネートを見比べられます↓
ファーの面積が大きい作品ほど、合わせる服はシンプルにすると輪郭がきれいに見えます。黒のジャケットなら細身のパンツやストレートデニム、ボルドーならアイボリーやチャコールのワンピースを合わせると、素材の立体感が主役になります。
反対に、ファーが袖口や裾だけのジャケットは、日常のツイードジャケットと同じ感覚で楽しめます。ジュエリーを重ねすぎず、靴やバッグの色を一つ拾うだけでも、10A特有のドラマを残しながらすっきりまとまります。
このコレクションで私が面白いと思うのは、「フェイク」を本物の代わりとして小さく扱わなかったこと。巨大な氷山の前で、素材の自由さを堂々と見せ、ツイードジャケットやレザーを新しい冬の服へ変えました。シャネルらしいのに、見たことがない。その驚きが、10Aを今も記憶に残るコレクションとなっています。
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